創刊によせて

大人の言うことなんか信じるな。
本当に大切なことを一つだけ。

雇用のカリスマ 海老原嗣生

僕がアドバイザーを務める広島県のイベントで、象徴的な大人に出会った。
それは、「就活生の父母向け」セミナーでの一コマ。
地元で新卒を昨年5名採用した中堅企業の社長が、こんなスピーチを繰り広げたのだ。
「最近の学生は、元気がない。物怖じして、自分から意見をなかなか言わない。しかも、大人と話すことに慣れていない。たぶん幼い頃から、ゲームや漫画など、家の中で一人で遊ぶ癖がついているせいだろう。おかげで、まともに面接でも話ができない。こちらの顔を見ずに、全く小さな声でボソボソと語るか、はたまた、脈絡のない話をえんえんとするか。こちらは、学生の良いところをなるべくみようと思っているのに、全く箸にも棒にもかからない。しかも、応募書類を見れば字が汚く、誤字も多い」
こんな話を、か細い声で、視線もうつろに、長々と脈絡なく10分以上もかけて…。
そっくりそのまま、お前に返してやりたいよ!とつっこみたくなった。
がしかし、会場の教育関係者や就活生の父母は、真剣にメモをとっている。
呆れて見ていたら、質問タイムになったのだが、会場の大人たちは、「物怖じして自分からは」誰も手を挙げはしない。おまけに、終了後のアンケートを見たら、そこには間違いだらけの汚い字で感想が書かれていた…。こんなもんなんだよ、大人とは。
僕の大学時代の同窓生で、三菱商事で部長になった友人は、「応募学生が新聞を読んでいないので、全く呆れる」と言っていた。すかさず僕は、「お前はディスコの黒服をスルーすることしか大学の時に考えてなかったろ」と返した。一流企業のお偉いさんだってこうだ。


学生は相手が大人だというだけで、自分よりも経験や知識が豊富な分、無条件に信用してしまう。大人は、そうした有利な立場を利用して、相手が若者だとなると、勝手な思い込みを語り始める。それも、自分を棚にあげて、一方的に。これって、立派な暴力だ。
お笑い草なんだよね、ほんとのところ、さ。


正直にいおう。「近頃の若者は」なんていう大人はほとんどがインチキだ。昔の自分を棚にあげている人ばかり。おんなじように、こうすれば就活はうまく行く、なんて、そういう話をする大人も信用しない方がいい。それこそ、自分の見てきた小さな世界を「絶対化」した妄言か、無知なカウンセラーの耳年増か、そんなところさ。
会社が欲しい人って、千差万別なんだよ。ソニーに受かった人が、トヨタに落ちる。三菱東京UFJ銀行から請われた人が、三井住友銀行からケンもホロロに扱われる。そんな感じ。
それは、男女関係とおんなじ。いくら武井咲や大島優子だって、世のすべての男から「好き」と言われやしないだろ?「え、あの娘とあいつが…」っていうくらい、いろんな組み合わせのカップルがある。
だから、「こうすれば絶対」とか「なべてこうすべし」という話が出たら、もうその大人は信用するな(いかん、これも「絶対すべし」だった)。


就活の場面で、一番考える真理を一つだけ話しておこう。それは、「企業の人は、うちの会社に入ってうまく行くかどうかを見ている」ということ。髪型とかメガネとか靴下とか、そんなことどうでもいい。外見よりも中身。
でも、中身って言っても、そこもよく言われる「こうあるべし」という話はあてにならない。地味で理知的な社風の企業に「立板に水」で芸人のようにしゃべるコミュニケーションは不要。ハードなストレス下で大きな仕事をする会社には、繊細な感性も細やかな配慮も不要。伝統的な環境で継続的な努力を必要とする会社では、問題発見力も斬新な発想も好まれはしない。
黄金則のように言われる「コミュニケーション力、発想力、配慮と気配り」だって、こんな感じ。相手によってそれが好まれるかどうか、差が出るんだ。


本当に大切なのは、「この企業は、どんな人を必要としているのか」考える力、かな。でも、それがわかったからって、「そんな必要なタイプに成りすます」べきではないから、絶対に。素直に自分を晒(さら)して、自分がそのタイプかどうかを、相手に判断してもらうこと。それが重要なんだ。そして、その結果がダメなら、「合っていなかったんだ、入らなくて良かった」と思うこと。受かる=偉い・すごい、反対に、落ちる=ダメなんて、一喜一憂するのはやめにしよう。それは単に「合っていた」「合っていない」だけのこと。で、合格できたら、その会社は「素のままのあなたがイキイキ働ける」ということに他ならない。それが一番でしょう?


とすると、大切なのは何か? 本当のあなたを、企業にしっかり伝えて、「合っているかどうか」判断してもらうことになる。唯一頑張ることとはもうおわかりだろうか?そう、それは、あなたのあなたらしい部分を見つけ、それを丁寧に語ること。企業は、それを待っている。本当は合っている企業なのに、ただ、あなたがそれを証明するような材料を出さなかったために、不合格となってしまう。そういうケースが、一番もったいないことだと、僕は思っています。
少し気楽になったでしょ?いや、却って混乱してしまったかな。もしそうなら、ごめん。

海老原 嗣生(えびはら つぐお)
1964年生まれ。大手メーカーを経て、リクルートエージェント(現リクルートキャリア)入社。
人事制度設計などに携わった後、 リクルートワークス研究所へ出向、「Works」編集長に。
現在、㈱ニッチモ代表取締役。リクルートエージェント社フェローとして人事・経営誌「HRmics」の編集長。広島県 雇用推進アドバイザー。21世紀政策研究所 コア研究員。京都精華大学 講師。「雇用のカリスマ」と呼ばれ、週刊「モーニング」に連載された漫画、『エンゼルバンク』の“カリスマ転職代理人、海老沢康生”のモデルでもある。

著書
『学歴の耐えられない軽さ』(朝日新聞出版) 『「若者はかわいそう」論のウソ』(扶桑社新書)
『就職に強い大学・学部』(朝日新書) 『仕事をしたつもり』(星海社新書)
『雇用の常識 決着版「本当に見えるウソ」』(ちくま文庫)
『女子のキャリア』(ちくまプリマ―新書)ほか多数。