世界と対等に戦える社会人になってほしい。

KYB(株)代表取締役社長 臼井政夫

 

料亭で知った体育会系の実力。

本誌 今日は、KYB株式会社(カヤバ工業株式会社)の臼井社長に企業のトップからみた採用についてお話をお伺いしたいと思います。KYB株式会社は、自動車のショックアブソーバや建設機械用油圧機器のリーディングメーカーで、世界的にも有名な企業です。自動車やオートバイが好きな人にとっては、信頼のブランドです。それでは、臼井社長、よろしくお願いします。

臼井 こちらこそよろしくお願いします。いきなりだけど、関係のない話から始めてもいいですか。じつは先日、息子からLINEがきてね。なにかと思ったら「33歳の誕生日のお祝いに何か旨いものをごちそうしてほしい」(笑)。

本誌 臼井社長は、LINEを活用されているんですか?

臼井 活用というほどのものではないけれど・・・時代に乗り遅れちゃいけないからね(笑)。それで、どんなものが食べたい?と返信したら、「行ったことがないところに連れて行ってほしい」。う〜ん。ここはひとつ親父の威厳を保たなくてはと(笑)。

本誌 それで、どこに行かれたのですか?

臼井 向島の料亭に連れて行きました(笑)。

本誌 えっ!!

臼井 若い人が行くところじゃないから、さすがにお座敷は経験無いだろうと思いましてね。70歳や80歳のプロの女性たちが、三味線弾いて長唄うたって・・・。

本誌 息子さんは、どんな反応でしたか。

臼井 「世の中には、こんなところもあるんだなぁ。料亭なんて、きっと最初で最後の体験だよ」と、びっくりしたような顔をしていました。

本誌 お座敷ですから、作法も難しそうですね。粗相したら叱られそうです。

臼井 それが驚いたことに、けっこう堂々とした立ち居振る舞いで、緊張した様子はなかったんです。 息子は実業団のソフトボール選手で、学生時代からずっと体育会系だったんですね。勉強はあまりしなかったみたいだけど、タテ型社会での身の処し方は体に染み付いていたようなんです。予備知識もなく、ぶっつけ本番でしたが、親父のやり方を見よう見まねで、お座敷の雰囲気を楽しんでいました。

本誌 普通なら躊躇したり、とまどったりするような環境下に置かれても、体育会系のようなタテ型社会で育った人は、先輩の背中を見ながら状況を乗り越える術を身につけているのかもしれませんね。
 
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ストレスのない仕事なんてない。

臼井 たまたま最近の出来事だったので、手前味噌で息子のことを例に話してしまいましたが、会社に入って仕事を始めると、いろんなハードルが次から次へと目の前に現れてくる。重箱の隅をつつくような細かい上司もいれば、何かと口うるさい先輩もいる。仕事だって順調に行くのはまれで、紆余曲折、押したり引いたりしながらの毎日でしょう。

本誌 そうですね。仕事上でのハプニングを考えたら、料亭の作法がわからなくて戸惑うくらいはかわいいものですね。

臼井 私は、ものづくりの現場出身なのですが、採用担当も経験してきました。だからKYBに入社する若者には、そういう波瀾万丈な環境をうまく乗り越えて、自分を活かして提案していけるアクティブな社会人になってほしいんです。

本誌 そう思われるということは、最近は、社長から見て、少し物足りない若者が多いのですか?

臼井 核家族化がすすみ、家の中でも競争がなく、大切に育てられた人が多いから、みんな与えられることに慣れすぎているのかもしれないですね。教えてくれないから。指示してくれないから・・・。「待ち」の姿勢の人が多い。昔流行した「くれない族」の若者版みたい(笑)。

私なんて、6人兄弟の末っ子。しかも長兄から5番目までは年子で、うーんと年が離れて私が生まれた。一番上の兄とは17歳も違うから、もう親子みたい。食事をする時も、うかうかしていると食欲旺盛な兄貴たちがあっという間に食べてしまって、すぐにおかずがなくなってしまう。育ちざかりの子どもにとっては死活問題(笑)。だからいまでもものすごく早メシ食いなんです。品のない家庭環境だったけれど、相当もまれましたね。弱肉強食の社会そのもの。だから上司や同僚に少しストレスを感じただけで、仕事が嫌になってしまうのは、ちょっとさびしい。

本誌 そういえば採用基準に、「ストレス耐性」を挙げる企業も多いと聞きます。

臼井 ストレスのない仕事なんてないですからね。仮に寝食を忘れるくらい好きな事でも、それが仕事になった途端、必然的にいろんなストレスにさらされる。だからこそ、若者をしっかりした社会人に育てていくことも企業の使命だと思うんです。

KYBでは、人材は「人財」と書く。人は企業の財産。だから大切にしたい。でも、むやみに甘やかすのではなく、若い人たちに新たなことに挑戦できる環境をどんどん与えて、成果を出したらそれをちゃんと評価しようというのが私たちの方針です。もちろん、海外にもどんどん出て行ってもらいたい。「人財」と書く限りは、いまのしくみが本当にいいのか常に自己反省しながら、よりよい組織に育てていく努力をしています。