世界と対等に戦える社会人になってほしい。

KYB(株)代表取締役社長 臼井政夫

グローバルで勝つ!

本誌 現在どの企業もグローバル化を強力にすすめてます。KYBさんも非常に力をいれているとお聞きしました。でも一方で、最近は海外赴任を希望しない若者が増えているというニュースを読みましたが・・・。

臼井 確かに意外に男子学生には、その傾向が強いですね。でも女性はちがいます。積極的に海外へ行きたいという人が多い。ちなみにKYBでは女性幹部2名が海外に駐在しています。ありがたいことに海外でもKYBの技術は高く評価されていて、現在では海外拠点が37社。駐在員も140人います。売上も国内を抜く勢い。これからますます少子高齢化がすすみ、国内市場はシュリンクしていくことが避けられません。だから、人も資金も技術もどんどん海外に投資していきたい。我々の目標は「グローバルで勝つ」。そのためにも、チャレンジ精神のある若者にどんどんKYBの門を叩いてもらいたいと思います。

本誌 確かに、私たちの周囲をみわたしても女性のほうがアクティブな人が多いような気がします。

臼井 安倍首相も女性の社会進出や企業内での幹部登用を盛んに言い始めていますが、KYBでも推進しなくてはいけないと考えています。KYBの女性幹部社員は現在7名で、まだまだ少ない。これからは、男性だとか女性だとか、性別ではかるのではなく、仕事が出来るかどうか、やる気があるかどうか、成果を出せるかどうか。そういうものさしで、みんなフラットにはかっていくべきでしょうね。

 

新卒採用は、大きな分母で考える。

本誌 臼井社長は、採用も経験されていますが、採用の最前線にいた時と、企業全体を見渡すポジションにいる現在と、採用に対する考え方に変化はありましたか。

臼井 採用を担当していたときには、こういう人物ならKYBで活躍してくれるだろうという素養を重要視していました。自分と一緒に仕事をする同僚や後輩を選ぶという視点です。しかし今の立場だと、やはりすこし違いますね。たとえば学生の時は、自分一人が頑張れば試験で100点をとることはできるけれど、仕事は自分一人がどんなに頑張っても100点は難しい。そこに大きな差がある。組織の中で、まわりのいろんな人と力をあわせて成果を出さなければならない。そういう人財をどうやって育てていくかがベースにあります。

本誌 「人財」を育てる。時間もお金もかかりますね。

臼井 確かにそうですが、我々のようなものづくりの技術は3年や5年じゃ身につかない。新卒の場合は、分母となる時間が長いんです。ものづくりは20年経験を積むとそれなりの専門家集団に成長する。最初の10年は技術を身につけて、次の10年で管理職を目指す。そしてその後の20年は、マネージャーとして組織を束ねて、力を発揮していく・・・。

本誌 いまのこの時代に20年の分母で考えてくれるのは、学生にとってもうれしいことですね。

臼井 人生の中で、最も長い時間を過ごす場所は、きっと会社なんです。だから、そのなかで個人の技術を磨くことも大切だけど、会社は人を磨く場でもあると思うんです。たまたま縁があってKYBに入る、縁がなかったら他の会社。いろんな出会いがあっていいと思う。KYBから別の会社に転職する人もいれば、転職してKYBの仲間になる人もいる。だから、将来転職してもいいから、KYBにいる間に立派な大人に育ててあげたい。ちょっと、偉そうだったかな(笑)。

本誌 せっかく育てた人財が、他の企業に移ることは悔しくありませんか?

臼井 羽ばたこうとしている人には、気持ちよく羽ばたいて欲しい。でも、せっかく育てた人財。ほんとうは、イエローカードが出ている時に気づいて、悩みを聞いてあげるだけのスキルがマネージャーには要求されますね。レッドカードになってからでは遅すぎる。じつは、かなり前の話なんですけど、私が人事部時代に採用した社員が、どうしても転職したいと言ってきた。もちろん辞めて欲しくはないから、あれこれ説得して引き止めたのだけれど、最終的には転職しました。ところが、何年か経って、あるお客様と新たな製品開発をすることになったとき、相手先の技術担当者がなんと彼だったんです。驚いたし、素直にうれしかった。いま、幸せか?と声をかけると「はい!頑張ってます」。彼が辞めるときに、無理に引き止めないでよかったと思いました。人と人、縁があれば、巡り巡ってまたいい出会いをするんだと確信しました。
 tirasshi

 

理屈よりも行動。一歩踏み出す勇気を持て。

本誌 KYBには社長室がないのだそうですね。

臼井 私が社長になった時に大部屋にしたんです。副社長も専務もみんないっしょです。

本誌 社長室をみせてもらえませんか?

臼井 いいですよ。どうぞ、どうぞ。

本誌 入口にドアもないのですね。だれでも自由に出入りできるのですか?

臼井 もちろんです。それに、私の机の前には、椅子が置いてあるでしょう。私がまだ若手の技術屋だった頃の話です。先輩が私の描いた図面をチェックするのですが、その間2時間も机の前に私を立たせたまま。その時は我慢しましたが、こんな失礼なことはない。そんなイヤな経験をしたものですから、私はどんな人とも、ちゃんと目線を合わせて話をしたい。そんな気持ちから、この椅子があるんです。

本誌 大部屋にした理由を教えてください。

臼井 副社長も専務も最初はチョット?ネ・・・という感じでした。みんな一緒だと内緒話ができないでしょう(笑)。でもね、たとえば、決裁を受けるときに、専務、副社長、社長と順番に上げていくと時間もかかるし、決まるものも決まらなくなる。非常に効率が悪い。ここだと、みんなで見て、はいOK。ガラス張りの経営への第一歩だと考えています。また、KYBの役員達は皆、社内で開催する技術発表会、展示会、文化やスポーツイベントなど、あらゆる社内イベントに積極的に顔を出すようにしています。昼はイベント、夜は懇親会。胃が休む隙がない。健康第一。だから、ほらこんな健康器具もあるんですよ。(健康器具に乗って実演してくれました。)

本誌 いいですね。気分転換にもなりそうで。ところで、大部屋にしてから、社内の雰囲気は変わりましたか?

臼井 そんなにすぐには変わりませんよ(笑)。最初はみんなインパクトがあったみたいです。廊下を抜けるといきなり、社長、副社長、専務が顔を揃えているんですから。まだまだ時間はかかると思いますが、社員がみな組織を越えて、上下左右の関係を広げ、発言と行動ができるようになってほしいんです。

それには、もっともっと人間関係を深めていかないといけない。もし眼の前に座っている部下に対して「お前、来月転勤だって」なんてメールで送ったら、もらったほうは、ギョッとしますよね。ITの進歩とface to faceのコミュニケーション力は反比例しているんじゃないかと思います。

本誌 言いにくいことや、やっかいな相手には、ついメールにしてしまうことがあります。反省しなくてはいけないですね。

臼井 言いにくいことだからこそ、面と向かって言わないと、関係がこじれてしまう。仕事でミスして相手に迷惑をかけて、メール一本ですまそうとする。そんな社会人にはなってほしくないですね。

本誌 人と人の間が、だんだん離れて、体温を感じる距離じゃなくなるとさびしいですものね。

臼井 社会に出ると、理屈よりも行動が重要な場面が多い。仕事に限らず、たとえば電車の中でおばあちゃんが倒れた。そういう時に、すぐ一歩踏み出せるか。そこに、誰かが助けてくれるだろうと思っている自分はいないか。一歩踏み出す小さな勇気が、社会に出て、そして海外に出て世界と対等に戦える日本人になれる、大きな一歩だと思う。だから、会社の中でも、若い人には、あーだこーだと、理屈をこねる前に、まずやってみろと言っています。

2020年に東京オリンピックが決まりましたが、これからは免制震装置を装備したホテルが増えるでしょうね。海外からのお客さまは、免制震装置がついていないところは嫌がりますから。じつは、スカイツリーにはKYBの制震ダンパが入っています。これからさらに技術を磨いていろいろなところへ人の命を守る為に頑張っていきたい。いまの学生たちには、どうやって7年後=2020年を迎えるか。そのとき自分たちがどうやってグローバルな社会に貢献しているのか、どんな活躍をしているのかイメージしてほしい。この7年間は、若者にとっても、日本にとっても、大きなチャンスなんです。
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