新しい採用2(情報処理・サービス業)株式会社TKC

学生の意思を尊重した“待つ”採用。

短期間で内定承諾を迫る姿勢に疑問を持つ。

就職活動は、内定を得るための活動と思っている学生も多いが、実は就職活動で最も難しいことは、実際に入社する企業を選択することである。誰しも入社できるのはたったの一社。社会人の初めのスタートを切る会社を選ぶため、毎年多くの就職活動生が悩む。一社を選ぶということは、他の会社を断るということ。また逆に企業側は複数内定をもらった学生から選んでもらうため、これもまた相当な労力をかけて内定者をフォローしている。多くの企業では、内定後1~2週間、長くても1ヶ月程度で、内定を承諾するか辞退するかの意思決定を迫っているのが現状だ。

そんな中、「会計で会社を強くする・TKC全国会」でおなじみの株式会社TKCでは、15年ほど前から“学生の意思決定を待つ採用”を実施している。なぜ内定承諾を迫らず、意思決定を「待つ」のか。採用責任者の伊藤健一氏にその経緯をうかがった。

内定を出した学生が他社に行ってしまう悔しさのなかで・・・。

「私が人事に異動したのが20年前。その頃は当社の内定承諾率は50%未満。100人採用しようと思ったら、200人に内定を出さなければならない状況でした。当時はそれが当り前でしょうがないものだと思っていました」。

当時は、“内定を出した学生を、とにかく強くひっぱって入社を促す”という姿勢だった。会社の良いところを前面に出して、多少強引にでも、といった感じだったそうだ。「他社に行きたい」という学生は会社に呼び出してその理由を問い詰めていたという。「その頃は、なぜうちに来てくれないのか、という想いが強すぎて、ある意味、強引に引っ張ろうと思っていました」。

しかし、せっかく内定を出した学生がどんどん他社に行ってしまう悔しさを味わう中で、次第に、なにかやり方が間違っているのではないか、と思うようになったという。

「どうしたら内定承諾率が上がるのか、というのが最初の問題意識です。そこで、当社の社是でもある「自利とは利他を言う」という根本の姿勢に戻って採用を考えてみました。そこで思い至ったのが、今までの採用は学生の立場を全然考えていなかったな、ということでした。学生への情報提供といえば、会社案内や、会社説明会と複数の面接官との会話ぐらい。会社の情報を十分に伝えてないわけです。それにもかかわらず学生に内定承諾を迫るのは、とても無責任なのではないか?という気持ちが強くなりました」。

プラスだけじゃなくマイナス情報も提供して、内定式まで決断を待つ。

「いろんな企業があって、迷うのは当たり前。それなら、わかってもらう努力をした上で決めてもらおうと思ったんです」。これまでの一方的なアプローチではなく、とにかく多くの情報を、マイナス情報も含めて提供して、最後は学生に決断を委ねる方法に切り替えた。

現在では、4月~5月ごろに内定を出しても、10月1日の内定式までに決断をすればよいと、学生に伝えている。“こちらの一方的な選考に合格しただけであって、当社のことを十分に理解しているはずがない”という前提に立って、内定後に会社見学、社員懇親会や社内報などを通じて、自社理解を深める努力をし続けるのだ。

「当社のことはもちろん、他社も同じぐらいきちんと研究して、その上で比較して決めなさい。それが就職活動だ」。と話しているそうだ。学生にとっては大変ありがたいことだろう。しかし、企業としては苦しいはずだ。内定承諾者の数がなかなか確定しないのだから。それでもTKCでは、先の見えない苦しみを我慢して、承諾を保留している学生に対し、迷っているポイントは何か、必要な情報は何か、きめ細やかなフォローを行う。一人ひとりの学生にとって、一番よい就職先を決めるためのアドバイザーになろうと決めたのだった。

入社して『この会社最高』って思えてもらえればそれでいい。

すると、1年目から結果が出た。最終的な内定承諾率は前年と比べて大幅に上がったのだ。伊藤氏の中で「このやり方が正しい」という確信が生まれた。その後現在に至るまで、15年ほどこのやり方を続けている。

ただここ数年は、他社に決めていても連絡してこない学生や、無意味に期限を延ばすような、“納得すること”を知らない学生が増えてきたという。

「いつまでも『もっと良いところがあるのでは』と思っていてはキリがないですから。ただ待つだけ、ほったらかしにしたらだめだと気づきました。内定者とは一人ひとりと対話をしながら、どうやったら決められるかを一緒になって考えています」。

「ここ数年は、社会情勢の影響もあり、とにかく慎重な学生が増えました。『もっと思い切って飛び込んでしまえばいいのに』と感じることもあります」。

社会に出てしまえば、全ての準備が整ってから動くなんてことはまず無理で、何かをやりながら走らなければならない。飛び込んでしまえば意外となんとかなることの方が多いものだ。

「どこに行っても、結局は自分次第。合う、合わないはありますが、入社して『この会社最高』って思えてしまえばそれでいいじゃないか、と思いますね。私はTKCが最初に出会った会社でしたが、おかげさまで、今でも『この会社最高』って思っていますよ」。そう言ってニコッと笑う伊藤氏は、最高にかっこいい。